投資分析:キャッシュフロー
最近は、アメリカの投資分析手法も日本に入りつつあり、不動産投資の初心者には、用語が難しく感じることがあるかと思います。私自身は、GPIやNOI、Opexのような3文字語、4文字語はあまり好きではないのですが、不動産会社の中には、積極的に勉強して使っている会社が増えています。
不動産投資の初心者にはかなり戸惑われる内容が多くあると思います。取り合えず、下記のキャッシュフロー計算に使われる用語はまずは抑えておくといいでしょう。分からなければ、飛ばしても構いません。
米国式で出てくる用語 | 説明 | 計算例 |
@GPI(Gross Potencial Income) | 満室時賃料の賃料収入 | 1000万 |
−A経費(空室損、滞納費) | 空室率に基づき算出する空室損(家賃の10%等) | ―50万(5%) |
+B雑収入(コインランドリー、自販機等) | コインドリー、自販機収入との雑収入 | +100万(自販機、基地局収入) |
CEGI(Effective、Gross Income) | 実効総収入:GPI―経費(空室損)+雑収入 | 1050万(1000万−50万+50万) |
−DOpex(Operation expence) | 運営上の経費すべて | ―200万(20%) |
ENOI(Net Operating Income) | 営業純利益:GPI―Opex | 850万(1050万―200万) |
−FADS(Annual Debt Service) | ローン返済 | 500万 |
GBTCF(Before Tax Cash Flow) | 税引前キャッシュフロー:NOI―ADS | 350万(850万―500万) |
−HTax | 税金(法人税、所得税、住民税、事業税 | 100万(概算) |
IATCF(After Tax Cash Flow) | 税引き後キャッシュフロー:BTCF−Tax | 250万(350万―100万) |
実は、簡単なことを表しているのですが、とても難しく見える、つまりプロのように見えるところです。不動産投資家の層も広がりレベルが上がってきていることもあり、不動産会社は盛んに自分たちがプロであることを米国式の投資手法を用いて説明する時代になっています。
メールで案内が来た時には、「BTCFが100万以上でます、だからいい投資ですよ」、のような表現がでてくれば、何を指しているかがなんとなく理解できればいいです。
他の記事でも説明しましたが、経費(Opex)や空室損を詳細に算出することは現実的には難しく、ある程度の割合20%等で算出するしかありません。そのため、上記を知っているからすごいわけではなく、自分の投資判断ツールをもっていた方がよほど賢いことになります。
盲目的に用語を使うようなことをしないで、自身で理解することをお勧めします。家賃がいくらで、そこから空室・滞納損失、運営費、ローン返済、税金を引いたら、最終的に残るキャッシュフローがいくらですよということだけです。
@GPI(家賃収入)
GPIは、何も難しい概念ではなく、満室時の家賃収入を指しています。空室の部屋は、適正な募集家賃の数字を使い、満室時の賃料を使います。埋まっている部屋も次募集したら決まるであろう適正家賃まで、計算した方がより正確な計算ができます。
A空室・滞納
空室や滞納の損失を指しています。どこまで空室損・滞納損を見込むかというと、賃貸ヒアリングをして、問題ないと判断したエリアを基本として考えていますので、5%~10%程度が妥当でしょう。逆に空室損を20%も見込まないといけないような物件は見送った方がいいでしょう。
B雑収入
雑収入は、コインラインドリー、自販機収入、携帯基地局、太陽光発電等の保有物件に付加した収入源です。
米国式では、家賃収入と雑収入は分けていますが、あまり分ける必要はないでしょう。どちらも収入源には変わりないので、GPIにそもそも含めていい収入となります。
CEGI(実効総収入)
GPIから空室・滞納損を引き、雑収入を足した実際ベースの賃料収入を表しています。いつも満室を想定してシミュレーションをする人はいないわけで、ある程度の空室損を見ておきましょうという簡単なことをいっています。EGIという聞きなれない言葉に惑わされないようにして下さい。
このEGIは、銀行も同じような見方をしてきます。エリアによって空室損を見るので、総家賃収入の80%をベースに収支計算を行ったりしています。どこまできつく空室損を見るかは銀行によっても変わってきます。
Dopex(運営費)
opexは、運営費です。
【運営経費(ランニング費用)】
管理料、修繕積立金、固定資産税、都市計画税、修繕費用、水道光熱費、リース料、出張費用等
空室損を別で見積もっているため、概ね15%〜20%くらいになります。私の管理している指標でも、空室損以外で18%程度です。空室損が実績値では3%〜4%の範囲のため、空室損を合わせても21%〜22%程度となっています。
ENOI(営業純利益)
NOIは運営後の正味の収益です。EGIからOpexを差し引いた値となります。収益から借入金の金利は控除せずに、純粋に不動産の収益力を見る指標としてよく使われます。借入金の金利を控除しないのは、人によって借入をしない人や頭金を3割入れる人、それぞれによって借入金の金利は変わってくるからです。
NOIは不動産の収益力を測る指標で、収益不動産の実力といえます。そのため、NOIは銀行にとっても重要な指標としてみており、不動産の価値を見る上で把握しておく重要な指標です。そのため、NOIとの組み合わせでいろいろな指標(キャップレート、借入償還余裕率等)にも使われます。
FADS
ADSは、年間返済額です。銀行から借入がある場合には、返済が発生します。その返済額がどのくらいかということです。シミュレーションソフトに融資額、金利、融資期間、元利均等もしくは元金均等を入力すると年間返済額が計算されます。
不動産投資ではほとんどの場合、元利均等返済になりますが、まれに元金均等返済になる場合があります。元金均等返済は、当初の返済額が大きくなりますので、キャッシュフローが出にくい投資となりますので注意してください。
私が、元金均等返済を選択する場合は、元金均等返済でも返済額が満室収入に対して50%以内(返済比率が50%以内)に収まっている場合だけにしています。
出典:住宅金融機構「1-5. 元利均等返済と元金均等返済とは?」
http://www.flat35.com/loan/atoz/1_4.html
返済額(元金+利息)が一定のため、返済計画が立てやすくなります。
元金均等返済に比べて、返済開始当初の返済額を少なくすることができます。
デメリット
同じ返済期間の場合、元金均等返済よりも総返済額が多くなります。
借入金残高の減り方が遅くなります。
返済額(元金+利息)は返済が進むにつれ少なくなっていきます。
元利均等返済に比べて、元金の減少が早いため、同じ返済期間の場合、元利均等返済よりも総返済額は少なくなります。
デメリット
返済開始当初の返済額が最も高いため、当初の返済負担が重く、必要月収も高くなります。
GBTCF(税引前のキャシュフロー)
BTCFは、税引前のキャッシュフローです。つまり、税引前にどれくらい手元に現金が残っているかを表しています。税金は人によって異なるので、キャッシュフロー投資をする場合は、まずBTCFできちんとキャッシュフローがでていることを確認する上で重要な指標となります。
上記の計算例をみると、NOIを出すところまでとても難しく感じるものですが、実は簡易に出してしまうとすぐにでてしまいます。なぜなら、空室損とOpexは25%程度なるからです。あとは、ADSであるローン返済額を出してしまえば、BTCFは簡単に計算できます。
したがって、ローン返済は、スマートフォンで常に計算できるようにシミュレーションソフトを入れておくと良いでしょう。ローン計算ができれば、BTCFはすぐにでます。言い換えれば、ローン返済がどの水準かでBTCFが決まるので、ローン返済額の比率を見るだけでも投資収益の分析ができます。
そのため、私含め不動産投資で成功してきた方の判断が早いというのは、物件のもつ実力と手元に残るキャッシュフローを瞬時に算出できるからです。
※記事「返済比率で借入の安全度を理解する」を参照してください。
HTAX
TAXは、所得税、住民税、事業税、法人税などを指します。個人の所得税率は累進課税になっていること、法人も所得に応じて、税率が異なりますので、こちらは一概に言えません。
また、TAXの計算方法は、減価償却が経費にできること、借入の金利部分しか経費にできない、などややこしい計算になりますので、ここでは割愛しますが、不動産投資では利益が出やすい構造になっていますので、TAXを無視して最終的な手残りキャッシュフローのATCFにたどり着けない、ということだけ理解しておいてください。
IATCF
ATCFは、税引き後のキャッシュフローとなります。ATCFが最終的に1年間賃貸経営してきて、最終的に手元に残るキャッシュ=現金となります。最終的に残る現金がいくらになるのかが賃貸経営が成功しているかを見るポイントになりますので、ATCFが多く残るように経営をしていかないといけません。
しかし、税を理解し、節税をしてキャッシュを手元に多く残すのは意外と難しいです。不動産投資は、最終的には税を制さないとキャッシュフローが残らないので、税務のカテゴリで詳しく勉強していただくことが必要になります。
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