滞納者でない人が占有しそうな場合は占有移転禁止の仮処分が必要
長期的に家賃を滞納している賃借人がいる場合は、建物明渡請求訴訟において「確定判決」または「和解調書」を得た上で、明渡しを強制するための強制執行をする必要があります。
ただ、この強制執行はあくまで賃借人に対する執行となるため、万が一部屋の中に別人が住んでいた場合は、強制執行が妨げられる恐れがあります。これが俗にいう「占有屋」だったりします。
そこで、建物明渡請求訴訟によって最終的に強制執行までもっていくことを計画している場合は、予め賃借人が他者に占有させる可能性があることを見越して、その事前対策が必要となります。そして、この際に行う手続きのことを「占有移転禁止の仮処分申請」と言います。
占有移転禁止の仮処分とは
まず「占有」とは分かりやすく言うと、その部屋に「住んでいる」または「居座っている」ような状態とイメージしてください。そして「移転」とは、他人を自分の代わりにその部屋に住まわせるというような状態を言います。
つまり、「占有移転禁止」とは、「自分の代わりに他人をその部屋に住まわせることを禁止する」というような意味になります。次に「仮処分」とは、裁判の目的となっている権利などを守るために、裁判所によってなされる「暫定的な措置」のことを言います。
建物明渡請求訴訟の例で言うと、万が一訴訟を起こしている最中に、賃借人が他人に依頼してその部屋を占有させてしまうと、その後賃貸人が勝訴したとしても、強制執行ができなくなってしまうため、訴訟をする意味がなくなってしまいます。
そこで仮に裁判に勝訴した場合に、建物明渡しという権利を行使できるよう、その妨げとなる占有移転という行為を裁判所の力によって「禁止」するというのが、占有移転禁止の仮処分なのです。保証会社が入っている場合は、保証会社の弁護士が、占有移転禁止の仮処分も行うのが通常です。
占有移転禁止の仮処分がされると
占有移転禁止の仮処分申請が認められると、実際に裁判所の執行官がその物件の現地まで出向き、その部屋のドアに直接「占有移転を禁止する」旨を記載した「公示書」という張り紙を貼付けます。
ドアへの貼付けが困難な物件の場合は、公示書を貼った立て札を立てたりすることもあります。公示書は一度貼られると勝手に剥がすことはできず、もしも剥がすと刑法上の犯罪行為となり刑罰に処せられる可能性もあります。また、仮に剥がしたとしても執行官が何度でも貼り直しにやってきます。
この手続きを「保全執行」と言い、これ以後に部屋を占有し始めた者がいたとしても、裁判で確定判決が出れば問題なく強制執行することが可能になります。
占有移転禁止の仮処分を知らず占有している人への効果
占有している人が、「占有移転禁止の仮処分があったことを知らなかった」と言い張った場合はどうなるのでしょうか。そもそも占有移転が禁止である旨は、ドアに貼付けた公示書を見れば誰でもわかるはずのため、「知らなかった」は基本通りません。
法的にはこれらの占有者については「知りながら占有した者」と推定して対処していくことになるため、たとえ本人が知らなかったと言い張ってもとりあえず無視して進める感じとなります。ただ、しつこい占有者は異議申立てをしてくる場合もありますので注意しましょう。
占有移転禁止の仮処分申請は、必ずしも必要ない
この手続きは必ずしも必要というわけではありません。例えば賃借人が特定できていて、単に家賃を滞納しているだけのような場合は、迅速に訴訟手続きを行えば大丈夫ですが、契約者以外の人間が部屋を勝手に使用している可能性がある場合は、必ず占有移転禁止の仮処分を行った上で裁判手続きを進めることをおすすめします。
せっかく建物明渡請求訴訟で勝訴しても、他者占有が理由で強制執行ができなかったら、多くの時間を無駄にしてしまいます。ですから、多少面倒でもこの占有移転禁止の仮処分申請については、できる限り事前に行っておくよう心がけましょう。
まとめ
・保証会社が明け渡し訴訟をするときには、弁護士が占有移転禁止の仮処分申請も同時に行いますが、ご自分で実施する場合には、忘れずに申請しておきましょう
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