未払い家賃:訴訟・少額訴訟
家賃滞納は不動産賃貸事業において、最も所有者を苦しめるトラブルと言っても過言ではないでしょう。裏を返せば、不動産投資家である以上は、この家賃滞納というトラブルに自力で対処できる程度の法的な知識はつけておくべきでしょう。
滞納した人を追い出す明渡訴訟も大変ですが、滞納した家賃自体を回収するのも結構大変です。保証会社が入っていないと自分で回収するしかありません。そこで今回は、未払い家賃の回収方法として利用する「訴訟」について解説したいと思います。
家賃滞納に対する不動産投資家としての心構えとは
家賃滞納が発生したらいきなり訴訟を起こすのではなく、まずは自力での回収を目指しましょう。なお、この際賃貸管理を不動産業者に委託している場合は、その会社の担当者とも相談すると良いでしょう。
ちなみに、不動産業者も管理委託の範囲内で契約者に通知や連絡をして対応してくれますが、「未払い家賃の回収」を業務として不動産業者が行なうことはできません。これ、意外に勘違いしている不動産投資家が多いので注意しましょう。
たとえ1ヶ月分の家賃滞納だとしても、それを回収する行為はいわゆる「債権回収」と同じであり、それは「非弁行為」となるため弁護士にしかできません。ですから、たとえ管理を不動産業者に委託している場合でも、あくまで家賃回収については、自分が主体となって対応しなければならない、という強い自覚を持つことが、不動産投資家としてとても大切でしょう。
未払い家賃は「早期対処」で訴訟により速やかに回収
未払い家賃を全額回収するためには、何よりも滞納額をためないことが重要です。そもそも1ヶ月分の家賃が支払えない人間に、5ヶ月分、6ヶ月分と家賃がたまってしまうと、普通に考えて宝くじでも当たらない限り全額回収は難しくなってきます。
そのため、家賃滞納が始まってから自力で督促を試みて、それでも支払いがない場合は、2ヶ月程度滞った段階で素早く訴訟に踏み切ることが大切です。
「できる限り大事にしたくない」と考えて訴訟を避ける不動産投資家の方が多いのですが、それは大きな間違いです。訴訟をすると大事になるのではなく、大事にしないためにも早めに訴訟に踏切り対処することが大切なのです。
家賃滞納は簡易迅速な「少額訴訟」が有効
未払い家賃を回収するために通常の訴訟を利用すると、最低でも2回は公判が設けられる可能性が高いため、時間もかかりますしその間も滞納額が増え続けてしまいます。
そこでお勧めしたいのが「少額訴訟」です。少額訴訟とは未払い家賃合計が60万円以下の場合に利用できる、通常の裁判よりも簡易迅速な訴訟手続きです。裁判も1日で終了し判決が出るため、裁判にかける労力も最小限に抑えられます。
また家賃滞納の場合は、賃借人と滞納額について争うことが少ないため、弁護士に依頼せず、自分自身で対処することも十分可能です。訴状の作成についても、裁判所の窓口で丁寧にアドバイスをしてくれますので安心です。簡単な書式がありますので、それに自分で書いて窓口へ持って行き確認してもらいましょう。
少額訴訟で注意すべきこととは
少額訴訟は通常の裁判よりも非常に利用がしやすく、少額の家賃滞納を回収するためにはとても有効な訴訟手段ですが、それ故に一つ注意点があります。
それは、和解を迫られることがあるということです。少額訴訟は、1回の審理で判決が出るという点を売りにしていますが、場合によっては原告、被告の事情を考慮して双方に妥協を迫られることもあります。
例えば、分割払いを認めるよう迫られたり、滞納総額の減額を提案されたりすることもあるかもしれません。いくら裁判によって勝訴しても、「ない袖は振れない」という現実があるため、滞納者に支払い能力が無い場合は、ある程度の妥協を迫られる可能性があります。
そのため、訴訟に踏み切る際には、滞納者に弁済能力が残っている比較的早い段階で対処することがとても重要なのです。裁判で勝訴すれば問題がすべて解決すると考える人が多いのですが、実際は裁判で勝訴することが目的ではなく、未払い家賃を全額回収することが目的のはずです。たとえ勝訴したとしても賃借人に弁済能力がなければ、その判決は紙切れ同然となってしまいます。
そのため、未払い家賃を回収するために訴訟を提起する場合は、必ず契約者および連帯保証人の支払い能力を確認した上で踏み切るようにしましょう。もしも弁済能力が乏しい場合は、未払い家賃の回収よりも、建物明渡請求訴訟を優先する必要があるでしょう。
まとめ
・滞納する人から、家賃を回収するのは実質的にはとても難しい
・それでも滞納家賃を回収したいときは、早期に少額訴訟を
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