売却時の税引き後キャッシュ(手残り)を理解する
収益不動産の売却では税金のことを考える必要があります。収益不動産の売却では、売却代金で残債が消せるかがポイントになりますが、残債が消えるだけでなく、税金の支払いまで検討していくことが重要です。
まずは、売却した際には、譲渡所得を計算することになります。この譲渡所得が赤字になれば、当然ながら、税金を払う必要はありませんが、譲渡所得が黒字になれば、税金の支払いが発生することになります。収益不動産の売却での税金については、個人なのか法人なのかによって課せられる税金の種類や税率が異なります。
譲渡所得と税引き後キャッシュ
譲渡所得とは、売却代金から決算上の簿価と譲渡費用を差し引いた金額が譲渡所得になります。
譲渡所得とは、
「売却代金−決算上の簿価−譲渡費用(仲介手数料、司法書士費用、立退料など)=譲渡所得」
で求められます。
決算上の簿価とは、物件を取得した時の決算上の物件価格(土地・建物合計+仲介手数料、固都税等)から年々建物の価値を減価償却費として経費に上げているため、その分を引いたものです。つまり、毎年、決算上の簿価というのは、減少していくものです。
この、決算上の価値の減少が、借入が減るスピード以上に減っていると、税金負担が重くなります。
例)当初1億円の物件価格が、20年後に下記となっていたとします。
・決算上の簿価:3000万円
・借入の残債:6000万円
税引き前キャッシュと譲渡所得の関係は下記のようになります。
・税引き前キャッシュ:1億円―残債6000万円−諸費用400万円=3600万円
・譲渡所得:1億円―決算上の簿価3000万円−諸費用400万円=6600万円
この譲渡所得に税率が掛かります。個人の短期譲渡であれば、40%ですから、
6600万円×税率40%=2640万円 が税金の支払い
つまり、税引き前キャッシュは3600万円ありましたが、税金2640万円を払うと、
・税引き後キャッシュ:3600万円―税金2640万円=960万円
これだけしか、残らないということが起きます。税金を考慮した出口である売却を考慮しないと、売った場合に、手残りのキャッシュが思ったより少ないもしくは、赤字になるケースもあります。
個人と法人の税率も見ておきましょう。
個人の譲渡所得の税率
個人が収益不動産を売却したときに課せられる税金は申告分離課税となっており、ほかの所得とは別にして申告をしなければなりません。1年間の所得をまとめてその所得に対して税金を支払う総合課税では、所得によって所得税+住民税の税率は異なりますが、収益不動産を売却したときに課せられる分離課税については譲渡所得に対して税率が決まっています。
譲渡益課税は物件を売却したときに課せられる税金のため、売却益が出なかった場合の税金は課せられません。この譲渡益課税は物件の保有期間によって税率が異なります。不動産の保有数は譲渡した年の1月1日で考えられますが、その譲渡した年で所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得となり、5年以下を短期譲渡所得となります。
長期譲渡所得の税率(5年超):所得税15%+住民税5%
短期譲渡所得の税率(5年未満):所得税30%+住民税9%
なお、平成25年から平成49年までの税額については復興特別所得税2.1%分が加算されます。そのため譲渡所得にかかる所得税は所得税と復興特別所得税の合算となり、長期譲渡所得の場合の所得税は15.315%、短期譲渡所得は30.63%という税率になります。
マイホームであれば、所有期間が10年を超えているなど条件を満たすことによって軽減税率の特例を受けることが可能で、3,000万円特別控除の特例、10年超所有軽減税率の特例、特定居住用財産の買換え特例といった特例があります。
しかし、収益不動産の場合は、基本的に特例の控除がありませんので、ダイレクトに税率が掛かってきます。
法人の譲渡所得の税率
個人が収益不動産を売却した場合は計算が複雑になりますが、法人が収益不動産を売却した場合は譲渡税ではなく、決算年度の賃貸利益と売却益のすべての売上を合算して、その利益に対して法人税が課せられます。
つまり法人の場合、
「利益-損益=課税所得、課税所得×法人税率」が法人税の額となります。
不動産売却によって得られた利益は、会社の利益として法人税の対象にされるのです。利益がでずに損益となれば所得はなしになるため、この場合税金はひかれません。
法人税の税率は利益額によって異なり、
利益の額が
0円〜400万円の場合:約21.4%
400万円〜800万円の場合:約23.2%
800万円以上の場合:約36%
平成27年4月1日以降開始される事業の場合は800万円以上の税率は約34.3%になります。
譲渡所得税を軽減する方法はあまりない
個人であれば、長期譲渡所得と短期譲渡所得では税率が大きく異なるため、5年が経過して長期譲渡所得となってから物件を売却することも検討の余地があります。物件の保有期間はあくまでも譲渡した年の1月1日で判断するため、実際の保有期間とは異なるところに注意が必要です。
それ以外に実施するとしたら、赤字となっている物件を売却し、同じ年の中で譲渡損益を通算することで、譲渡益を圧縮する方法がありますが、赤字となる物件を保有していないとできないので、多くの方はできません。
法人では、下記のような方法もあります。
・物件を買い増しし、取得した経費、減価償却を増やし、利益を圧縮する
・太陽光発電などのグリーン投資減税を活用する
ただ、売却した年に良い物件が出るのか、太陽光発電に適した物件が出るのか、といった難しいかじ取りが要求されるので、売却時には戦略が必要となります。
また税制は不動のものではありません。税制は毎年12月下旬までに税制改正大綱と地方税制改正案の概要がまとめられ、翌年度の予算案と一緒に1月上旬から中旬にかけて閣議決定され、3月末までに成立し、4月1日から施行されます。物件の売却時期によっては税率が改正され、税額が異なってしまう場合もあるため、税制改正大綱を確認するようにしましょう。
まとめ
・不動産売却時の税金は思った以上に負担が大きい場合がある
・税引き前キャッシュと税引き後キャッシュは異なるのでよくシミュレーションすること
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