節税対策:賃貸アパートの建築で評価を大きく下げる
土地持ちの方が相続税の節税対策をする場合、一つの選択肢として「賃貸アパートの建築」という方法があります。地主が更地にアパートを建てると節税になるということは何となく知られていますが、そもそもどういう仕組みで賃貸アパートの建築が節税に繋がっているのか、明確に答えられる人は少ないです。
本来は、賃貸需給の悪化からすると、適正な範囲に新築の建設をコントロールすべきとは思います。しかし、国が相続税の節税対策として認めているといえる制度(評価が下がる)になっているからこそ、空室が増えるという矛盾に満ちた環境の中でも相続対策の新築アパートにメリットがあるといえるからなのです。
そこで今回は、賃貸アパートの建築で相続税の節税に成功するまでの簡単なスキームをご紹介しつつ、その仕組みについて解説したいと思います。
土地の評価額はその「利用状況」によって異なる!
土地や建物などの不動産は、相続税を課税する際に「相続税評価額」に置き換えて計算をする事になります。
例えば、更地を所有している地主がいるとします。土地はその「利用状況」に応じて評価方法が異なるという性質があり、更地の場合は更地評価額として評価されますが、ここに賃貸アパートを建てた場合は更地から「貸家建付地」に変わるため、その評価額は更地評価額に比べ、都市部の住宅地であればおよそ2割程度安くなるのです。
仮に更地評価額が2億円の土地だとすると、そこにアパートを建てる事で1億6000万円の評価額となり、およそ4000万円も評価額を引き下げる事ができるのです。これが賃貸アパートによる節税の基本的な考え方となります。
賃貸アパートの建築で節税が成功するまでのステップ
更地評価額2億円の土地に賃貸アパートを建築すると仮定して、節税が成功するまでのスキームを見てみましょう。
ステップ1:銀行から融資を受ける
先ほどの考え方に従い、土地の評価額を下げるために賃貸アパートの建築をします。アパートの建築には多額の費用がかかるため、通常は銀行などから融資、つまり借金をして建築する事になります。
では今回は賃貸アパート建築資金として、1億円を借り入れたとします。この状況での資産状況をまとめると次のようになります。
【この段階の資産状況】
プラスの財産
更地評価額:2億円
現金:1億円
合計:3億円
マイナスの財産
アパートローン:1億円
差し引き資産:2億円
ステップ2:アパートを建てる
さて、銀行から借りた1億円を使って更地にアパートを建てましょう。アパートができあがると、その土地は更地から貸家建付地に変わり評価額がおよそ2割減ります。
ここでポイントとなるのが土地の上に建てたアパートの評価額です。実はこれが、賃貸アパートの建築が節税になる最も大きな理由の一つでもあるのです。建物の評価額は「固定資産税評価額」という国が決めた評価額となるのですが、この金額は賃貸アパートの建築にかかる費用のおよそ50%程度と言われています。
つまり、単純計算すると1億円の建築費の50%である5000万円が固定資産税評価額となる計算になります。これだけでもかなり大きな減額ですが、実は賃貸アパート建築のメリットはこれだけではありません。
建築した建物がアパートのようないわゆる「賃貸物件」の場合は、マイホームなどの自用建物と違い「貸家」という扱いになります。財産価値の考え方として、他人に賃貸する事になる貸家については、自用建物に比べ、所有者本人が自由にできない要素が増えるため、財産評価上、評価額が一定割合引き下げられる事になります。
具体的には「借家権割合」というものが設定されており、これが30%のため簡単に言うとアパートの場合は固定資産税評価額からさらに30%評価額が引き下げられるのです。これを単純計算するとこうなります。
1億円×50%=5000万円 これが固定資産税評価額。
ここからさらに借家権割合の30%つまり1500万円分が減額となります。
5000万円?1500万円=3500万円
なんと、1億円の現金を使って建てた賃貸アパートの評価額が3500万円になるのです。さて、では気になる資産状況はどうなるのでしょうか。以下にまとめてみました。
【この段階の資産状況】
プラスの財産
貸家建付地評価額:2億円(更地評価額)から20%減額(借地権割合次第)で1億6000万円
賃貸アパート:3500万円
合計:1億円9500万円
マイナスの財産
アパートローン:1億円
差し引き資産:9500万円
このように、更地のまま所有していた時には、相続税の課税対象となる相続税評価額は2億円だったのに対し、賃貸アパート建築後についてはなんと半分以下の9500万円にまで圧縮できるのです。
家賃を活用して納税資金対策も
賃貸アパートのメリットは、これらの節税効果だけにとどまりません。賃貸経営の醍醐味はなんと言っても家賃収入です。この家賃収入をアパートの所有者からその子供などに、贈与税の基礎控除の範囲内で毎年贈与をすることで、将来の「納税資金対策」にもなるのです。
まとめ
・基本的な考え方としては、土地に新築アパートを建築すると、評価額を大きく下げることができる
・土地は、貸家建付地になると評価が下がり、建物は固定資産税評価に借家割合を引くと大幅に引き下げることができる
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